
人材不足に直面する台湾の養殖業
「養殖業を営む一家は、我が社のサービスを利用した後、休暇を初めて取り、映画を見に行った」Hyson Technology(海盛科技)CEOの連唯証氏のこの発言は、台湾の伝統的な養殖業者の辛さを表現しています。台湾では、養殖漁業の漁師の多くが養魚池の近くに住み、魚の健康状態を確認するため、2時間ごとに池を巡回しながら過ごしています。
半導体エンジニアから起業家になった連唯証氏は、漁師がより簡単に、より良い魚を育てられるよう、台湾の環境に特化したAI養殖システムを開発しました。
連唯証氏は、クロツラヘラサギを観察するために毎年定期的に故郷の台南に帰省していましたが、ある時、南部の養魚池の数が大幅に減少していることに気づきました。その原因は、養殖業界が高齢化と人材不足に直面していることでした。伝統的な養殖方法では、養魚池の中の状態を把握することができないため、経験を持つ職人の勘に頼るしかありません。
連唯証氏は、養殖業の漁師たちは自分の池で百万匹近くの魚が死ぬという悲劇に直面することがあると指摘しています。そして、損失が大きい場合は、大規模養殖業者による買収を待つか、諦めるしかないとも語っています。
連唯証氏とそのチームは、半導体業界での経験を活かし、ハードウェアとソフトウェアをモバイルアプリと組み合わせ、養殖業者が「自由を獲得する」ことを可能にする「AI技術を搭載した養殖システム」を共同で開発しました。

AI技術の活用で養殖魚の損失が3割減
養魚池にカメラを設置することで、AIがカメラから得た画像を処理して魚群の状態を把握し、モバイルアプリにリアルタイムで表示できるようになりました。
「養殖業に携わる漁師さんは、20年間魚を育ててきたが、水の中で泳ぐ魚を見たのは初めてだ。本当に感動した」と話していたと連唯証氏は述べています。AI技術を搭載した養殖システムを実際に利用した結果、魚の損失が40%から10%まで減少しました。
カメラを水中に入れるのは、それほど難しい技術ではないように思えます。実際に、一部の漁師はヨーロッパから養殖システムや水中監視機器を導入しています。
しかし、台湾の気候や水質はヨーロッパとは大きく異なり、海水温が高いため、藻類やフジツボなどの生物が寄生しやすい環境です。そこで、Hyson Technology(海盛科技)は半導体産業での経験を活かし、半導体製造におけるコーティング技術を応用して表面を加工した水中カメラを開発し、生物の寄生を防ぎつつ、機器の耐用年数を延ばすことを可能にしました。
光の屈折、色の歪み、水の濁り、生物学的変化など水中画像のAI分析には、様々なアルゴリズムが必要です。そのため、海盛の従業員の80%がシステム開発を支援するソフトウェアエンジニアです。

Hyson Technology(海盛科技)は、海洋大学と連携して水産研究論文を統合し、魚類の病気のデータベースを構築し、AIが画像を認識するだけではなく、寄生虫や細菌感染など魚類の病気を検出できるようにしています。AIの自律学習により、毎年養魚池から収集されるデータは更新され、このデータは、海盛にとって大きな強みとなっています。
連唯証氏のAI起業の道のりは、順風満帆ではありませんでした。事業を始めた当初、AIを使ったビットコインの取引を試みていましたが、リスクが高く、諦めました。物流業界に GPS監視を導入しようとしたこともありましたが、長期的な発展は見込めず、断念しています。
養殖業の漁師と接したことで、市場の問題点に気づき、AIによる水中識別技術に投資するようになったそうです。何年もの試行錯誤の後、ついに成功しました。「私たちが投資を始めた時、水中画像認識のような難しい分野を選んだのかと多くの人が驚きました」と連唯証氏は振り返ります。
Hyson Technology(海盛科技)は、台湾の水産養殖業の水中画像認識市場の大部分を獲得していますが、台湾市場は世界市場のわずか0.4%を占めるに過ぎません。同社はすでに、東南アジアや中国など12カ国の代理店と協力しながら国際市場を開拓しています。

高級魚の養殖や交通事故の鑑定にも利用
Hyson Technology(海盛科技)は、漁師が魚を育てるのを支援することのほか、自社の技術を他の市場にも展開したいと考えています。
例えば、スギ、龍虎ハタ、ゴールデンポンパノ、クマノミなど8種の経済魚や観賞魚といった高価値魚種の市場に焦点を当て、新技術への投資に意欲のある養殖業者をターゲットに活動しています。
「顧客が、我が社の技術から離れられなくしたい」と連唯証氏は語っています。エビやカニの養殖監視および自動給餌機を開発する場合は、元の養殖システムの魚群識別データをエビやカニのデータに更新するだけで使用できます。
さらに、同社は高雄市、台中市などの地元警察と協力してAI交通事故識別システムを開発し、警察による交通事故画像の分析を支援し、事故識別の効率を向上させました。
また、農業部と協力し、市場取引データをAIで分析する魚価予測システムを開発しました。今後、連唯証氏はAIと IoT (モノのインターネット) を通じて、各業界の悩みを解決したいと考えています。
引用元:https://www.bnext.com.tw/article/82762/hysontech